背景――増えてきた工場見学を、受注につなげたい
製造業では、取引先や新規顧客を工場へ案内する機会があります。
設備を磨く。
通路を片付ける。
製品や加工サンプルを並べる。
もちろん、どれも大切です。
しかし、私は30年以上にわたり調達の仕事をする中で、きれいに整っているのに、見学後ほとんど印象が残らない工場を何社も見てきました。
一方で、設備が最新ではなくても、
この会社と仕事をしてみたい
と感じる工場もあります。
違いは、設備の新しさだけではありません。
工場をただ「見せている」のか。
それとも、自社の強みが伝わるように「魅せている」のか。
今回は、工場見学の機会が増えていたG社様と取り組んだ、見学環境の改善事例をご紹介します。
バイヤーが工場見学で確認していること
工場見学では、設備や加工能力を確認します。
しかし、調達担当者が見ているのは、それだけではありません。
- 現場が日常的に管理されているか
- 作業者が自分の仕事を説明できるか
- 品質を維持する仕組みがあるか
- 得意な加工や技術が明確か
- 問題が起きたときに相談できそうか
- 将来も安定して供給できそうか
こうした点を見ながら、
この会社なら、安心して任せられるか
を判断しています。
工場見学とは、設備を紹介する時間ではありません。
取引先としての信用を確認してもらう時間です。
G社様の課題――よい工場なのに、強みが残らない
G社様には、設備も技術もありました。
現場も整い、説明も丁寧でした。
決して、見せるものがない工場ではありません。
ところが実際に見学すると、
この会社の一番の強みは何か
が、最後まで明確になりませんでした。
加工設備を順番に説明する。
製品を見せる。
質問に答える。
一つひとつは丁寧です。
しかし、それぞれの説明が点のままで、G社様の強みとして一本につながっていませんでした。
悪い工場ではありません。
むしろ、よい工場だからこそ惜しい状態でした。
RE:GENが最初に行ったこと
今回、最初に提案したのは設備投資ではありませんでした。
すでにある設備、技術、製品、現場の工夫を、来訪者に伝わる順番へ並べ直すことでした。
まず、
- G社様が最も得意とする加工は何か
- 顧客から評価されている点は何か
- 他社との違いはどこにあるか
- どの工程を見れば、その違いが分かるか
- 見学後に何を覚えて帰ってほしいか
を整理しました。
そのうえで、工場見学全体を一つの営業ストーリーとして組み直しました。
1.見学ルートを見直す
見学者にとって分かりやすい順番と、工場側が案内しやすい順番は、必ずしも同じではありません。
単に入口から近い設備を順番に案内するのではなく、
この会社は、何を得意としているのか
が早い段階で伝わるルートへ変更しました。
工程の流れを理解した方がよい製品については、材料から完成品まで順番に見せる。
得意技術を印象づけたい場合は、最初に代表的な加工品を見せ、その後で工程を案内する。
見学者が理解しやすい流れを優先しました。
2.加工前と加工後を並べる
完成品だけを見ても、加工の難しさは伝わりません。
そこで、加工前の材料や素材と、加工後の製品を並べて見せるようにしました。
- どこを削ったのか
- どの程度の精度が必要なのか
- 何が難しいのか
- どのような工夫をしているのか
を説明することで、設備の紹介が技術の説明に変わります。
単に、
この機械で加工しています
と伝えるのではなく、
この形状と精度を実現するために、この工程と工夫が必要です
と伝えられるようにしました。
3.設備説明を、顧客価値へ変える
設備の型式や性能だけでは、調達担当者の記憶には残りにくいものです。
そこで、
この設備があることで、顧客にどのような価値を提供できるのか
まで説明するようにしました。
たとえば、
- 工程を減らせる
- 高い精度を安定して出せる
- 短納期へ対応できる
- 試作から量産まで一貫して対応できる
- 外注工程を減らせる
という形です。
設備の話を、品質、コスト、納期、対応力という顧客の言葉へ置き換えました。
4.作業者が説明できる場をつくる
工場見学では、経営者や営業担当者だけが話し続けることがあります。
しかし、現場の作業者が自分の工程を説明できると、工場の印象は大きく変わります。
実際に加工している人が、
ここでばらつきが出やすいので、このように管理しています
と話せば、技術と品質管理の実態が伝わります。
もちろん、全員に長い説明を求める必要はありません。
担当工程について、
- 何をしているか
- 何が難しいか
- 何に注意しているか
を短く話せるようにしました。
5.質問しやすい見学へ変える
一方的に説明され続けると、見学者は質問するタイミングを失います。
そこで、工程ごとに短く区切り、
ここまでで、気になる点はありますか
と確認するようにしました。
質問が出れば、見学者が何に関心を持っているかが分かります。
その内容は、見学後の商談や提案にもつながります。
工場見学は、説明する場であると同時に、顧客の課題を聞く場でもあります。
工場見学は、営業活動である
私は調達担当者として工場を訪問した後、社内へ戻り、
どの会社へお願いするか
を話し合う場に何度も参加しました。
そのとき、記憶に残っているのは設備の型式ではありません。
あの会社は、管理が行き届いていた
あの会社なら、難しい案件も相談できそうだ
あの現場は、作業者が自信を持っていた
あの会社は、問題が起きてもきちんと対応してくれそうだ
という印象です。
工場見学は、製造部門だけの行事ではありません。
自社の技術、管理、人材、姿勢をまとめて伝える営業活動です。
結果――強みを説明できる見学環境へ
見学ルート、展示、説明順序、作業者の役割を見直したことで、G社様の工場見学は、設備を順番に紹介するだけのものから、会社の強みが一本の流れで伝わるものへ変わりました。
また、見学を担当する社員の間でも、
自社の何を見てほしいのか
何を強みとして説明するのか
が共有されるようになりました。
工場見学の改善は、来訪者への見せ方だけを変えたのではありません。
社員自身が、自社の技術と価値を言葉にする機会にもなりました。
RE:GENの視点――価値は、あるだけでは伝わらない
G社様には、支援前から設備も技術もありました。
新しくつくったのは、技術そのものではありません。
すでにある価値を、
- どの順番で見せるか
- 何と比較して見せるか
- どの言葉で説明するか
- 顧客のどの課題と結びつけるか
という伝え方です。
どれほど優れた技術でも、相手が理解できなければ、選定理由にはなりません。
工場をきれいにすることは大切です。
しかし、きれいであることだけでは、会社の違いまでは伝わりません。
まとめ――記憶に残る工場には、伝える筋道がある
今回の事例では、G社様の見学ルート、展示方法、説明順序、現場担当者の役割を見直し、自社の強みが自然に伝わる工場見学へ整えました。
工場見学で大切なのは、すべてを見せることではありません。
自社の何を覚えて帰ってほしいのか
を決めることです。
きれいな工場は、たくさんあります。
記憶に残る工場は、そう多くありません。
その差は、設備の新しさではありません。
自社の価値を、相手が理解できる筋道で伝えられているかどうかです。
RE:GENは、大手メーカーの調達担当者として多くの工場を見てきた経験をもとに、工場見学のルート設計、展示方法、説明内容、模擬見学まで支援しています。
「工場見学は増えたが、商談につながっている実感がない」
「設備や技術の強みを、うまく説明できない」
「顧客から見て、自社の工場がどう映るか知りたい」
そのような課題があれば、まずは一度、調達担当者の目線で工場を歩くところから始めます。
RE:GENの考え方の根にあるもの
▸ 利益は、売る前に決まっている──理論原価という考え方
▸ 書籍『会社はもっと強くなる。』
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