「利は元にあり」とは、利益は売る段階ではなく、その手前の仕入れや段取りの段階から決まっている、という商いの考え方です。
古くから語られ、松下幸之助も『商売心得帖』の中で、この言葉を一つの項として取り上げています。
一見すると、「安く仕入れれば、その分だけ利益が増える」という意味に聞こえるかもしれません。
もちろん、仕入価格は利益を左右します。
けれど、三十年以上、調達という仕事に携わってきた私には、この六文字がもう少し広い意味を持っているように感じます。
利益は、最後の値下げ交渉で突然生まれるものではありません。
何を選ぶのか。どうつくるのか。誰と組むのか。どんな条件で仕事をするのか。
その一つひとつの判断が積み重なって、最後に「利益」という数字になって現れます。
だから私は、「利は元にあり」とは、安く買えという言葉ではなく、利益が生まれる“元”までさかのぼって考えよ、という言葉だと受け取っています。
1.「利は元にあり」とは何か
「利は元にあり」とは、簡単にいえば、利益は、売るときだけではなく、その前の段階から決まっている、という考え方です。
商売では、販売価格を自社だけで自由に決められるとは限りません。市場があります。競合があります。お客様があります。こちらが値上げしたいと思っても、その通りに売れるとは限りません。
一方で、何を仕入れるのか。どこから仕入れるのか。どのような条件で買うのか。どのようなつくり方を選ぶのか。こうした部分には、自分たちで考え、変えられる余地があります。
つまり利益には、自分たちで動かしやすいところと、動かしにくいところがある。その「動かせるところ」へ目を向ける。そこに、「利は元にあり」という言葉の大切な意味があるのだと思います。
「安く買え」という話ではない
ここで一つ、誤解したくないことがあります。「利は元にあり」は、仕入先から、できるだけ安く買えばいい、という話ではありません。
確かに、100円安く買えば、その時点の購入価格は100円下がります。しかし、その100円を無理に削ることで、仕入先の利益までなくしてしまったらどうでしょう。
設備投資ができなくなる。人を育てられなくなる。改善に時間を使えなくなる。新しい技術を提案してもらえなくなる。急な仕事に協力してもらえなくなる。
その場では安く買えても、長い目で見れば、もっと大きなものを失うことがあります。安く買うことと、良い調達をすることは同じではありません。
私が長く調達に携わってきて感じるのは、本当に見るべきなのは、相手の利益ではなく、仕事の中にある無駄だ、ということです。
材料を見直す。仕様を変える。工程を減らす。歩留まりを改善する。ロットを変える。物流を変える。つくり方そのものを変える。
そこに手を入れれば、仕入先の利益を奪わなくても、原価を下げられる可能性があります。
だから私は、「利は元にあり」=値切ること、とは考えていません。もっと手前を見る言葉です。
2.RE:GENが考える「元」とは何か
では、「元」とは何でしょうか。辞書のように一つの答えを決める必要はないと思っています。
私がこの言葉を調達やものづくりの現場に置いて考えると、「元」は仕入価格だけではありません。
材料。仕様。図面。工程。つくり方。段取り。発注量。在庫。物流。仕入先。取引条件。そして、人と人との関係。
利益が生まれる前にあるものをたどっていけば、「元」は会社のあちこちにあります。
たとえば、同じ部品でも、つくり方が違えば原価は変わります。同じ材料でも、発注する量や買い方が違えば価格は変わります。同じ図面でも、必要以上に厳しい公差が入れば工程が増えることがあります。同じ購入価格でも、不具合が多ければ選別や手直しに費用がかかります。納期が不安定なら、余分な在庫を持つ必要が出てきます。
図面の一本の線が、なぜ原価を動かすのか。その「元」をどこまでもさかのぼる考え方は、「板」と「粉」までさかのぼる原価の見方として、別のコラムでも書いています。
つまり、目の前にある「価格」は結果です。その価格をつくっているものが、もっと手前にある。
だから、「高いから下げてください」で終わるのではなく、なぜ、この価格になるのだろう、と一度さかのぼってみる。
材料なのか。工程なのか。仕様なのか。ロットなのか。運び方なのか。自社側の要求なのか。
その一つひとつを見ていくと、単純な値下げ交渉では見えなかったものが見えてきます。
このとき、「本来いくらでつくれるはずか」を積み上げて考える視点があります。私たちはこれを理論原価と呼んでいて、その使い方は一つのコラムにまとめています。
利益は、売ったあとに計算される
会社の決算書では、利益は最後に出てきます。売上から原価や経費を引いて、「これだけ利益が残りました」と確認します。だから、利益は売ったあとに生まれるもののように見えます。
でも実際には、その前から始まっています。
材料を選んだとき。仕様を決めたとき。工程を決めたとき。仕入先を選んだとき。発注条件を決めたとき。一つひとつの判断によって、最終的に残る利益の幅は少しずつ決まっていきます。
私は、利益は、売ったあとに計算される。けれど、利益をつくる仕事は、売る前から始まっている。と考えています。
だからこそ、最後に出てきた数字だけを見るのではなく、その数字をつくった「元」へ戻ってみる。そこに改善の入口があります。
そして、これは調達だけの話でもありません。設計にも「元」があります。製造にもあります。品質にもあります。営業にも、物流にもあります。日々の仕事の中にある小さな判断が、やがて会社の利益につながっていきます。
「利は元にあり」という六文字は、そう考えると、ものづくりに携わるすべての人に関係する言葉になります。
3.なぜ、この言葉をRE:GENの原点に置くのか
私は三十年以上、調達という仕事に携わってきました。
その間、多くの仕入先と出会い、多くの工場を見てきました。
価格交渉もしてきました。品質問題にも向き合いました。納期が間に合わず、関係する人たちと走り回ったこともあります。原価を下げようとして、設計や製造と話し合ったこともあります。
そして長く続けているうちに、一つのことを強く感じるようになりました。
問題が表面に出ている場所と、本当の原因がある場所は、必ずしも同じではない。
価格の問題に見えて、実は仕様の問題だった。
仕入先の問題に見えて、実は自社の発注方法に原因があった。
在庫の問題に見えて、実は納期設定や情報の流れに原因があった。
品質の問題に見えて、つくり方そのものを見直す必要があった。
目の前に現れた問題だけを直しても、また別の形で問題が出てくる。
だから、元を見る。その考え方が、私の仕事の中心になっていきました。
私は、調達を変えたいのではない
RE:GENは、調達から会社を強くすることを掲げています。
けれど、私がやりたいのは、調達部門だけを良くすることではありません。
強い会社をつくりたい。その入口として、調達を見ています。
調達は、会社の中でも少し特殊な場所にあります。設計とつながる。製造とつながる。品質とつながる。在庫とつながる。物流とつながる。経理とつながる。そして、会社の外にいるサプライヤーともつながっています。
だから調達から「元」をたどっていくと、会社全体が見えてくることがあります。
仕入価格だけを下げるのではなく、なぜ、その価格なのか。なぜ、その仕様なのか。なぜ、その工程なのか。なぜ、その仕入先なのか。なぜ、その在庫が必要なのか。と問いかけていく。
そこから会社を強くしていく。それが、RE:GENの考える調達です。
「RE:GEN」という名前
RE:GEN。漢字に置き換えると「利元」。その根底に置いているのが、「利は元にあり」という考え方です。
利益が出ないとき、最後の数字だけを見るのではなく、元へ戻る。
問題が起きたとき、表面を直すだけではなく、元を見る。
目の前の価格だけではなく、それを生み出しているものを見る。
そして、そこからもう一度、会社を強くしていく。
この考え方を、私は事業の名前にも置きました。
「利は元にあり」を、自分の仕事に置いてみる
「利は元にあり」という言葉は、商売の古い格言として読むこともできます。でも私は、今のものづくりにも十分に通じる言葉だと思っています。
何かが高いと感じたとき。仕事がうまく流れないとき。利益が残らないとき。すぐに誰かのせいにする前に、その「元」はどこにあるのだろう、と考えてみる。
自分たちで変えられるところはないだろうか。もっと良いやり方はないだろうか。本当に必要なものは何だろうか。
それだけでも、見える景色は変わります。
利益をつくるのは、営業だけではありません。調達だけでもありません。経営者だけでもありません。ものづくりに関わる一人ひとりの仕事が、少しずつ会社の利益につながっています。
だからこそ、最後に出てきた数字だけを見るのではなく、その手前を見てほしい。
何を選んだのか。どうつくったのか。誰と組んだのか。なぜ、そのやり方なのか。
そこには、まだ会社を強くできる余地が残っているかもしれません。
利は、元にある。
それが、RE:GENの原点です。
※この考え方を一冊にまとめた書籍『会社はもっと強くなる。』も刊行しています。あわせてご覧ください。
RE:GEN(利元)|調達から会社を強くする|中小製造業コンサルティング
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