「在庫は罪庫だ」
「在庫はキャッシュを殺す」
製造業では、こんな言葉を耳にすることがあります。
確かに、使われない在庫は会社の資金を眠らせます。
倉庫を圧迫し、管理コストを増やし、場合によってはそのまま廃棄になる。
だから、
「在庫を減らそう」
という話になる。
もちろん、それ自体は間違っていません。
しかし、私は調達の現場で長く仕事をしてきて、
在庫は、少なければ少ないほど良いわけではない
と思っています。
在庫を減らしすぎて材料がなくなり、生産が止まってしまえば、それは改善ではありません。
逆に、
「欠品したら困るから」
という理由だけで半年分を持っていれば、必要以上に資金を寝かせることになります。
では、どれだけ持てばいいのか。
私は、在庫について考えるときに大切なのは、
在庫を減らすことではなく、在庫を設計すること
だと考えています。
問題は、在庫が多いか少ないかではありません。
なぜ、その数量を持っているのか説明できるか。
そこから、適正在庫を考える必要があります。
適正在庫とは「平均○か月分」ではない
適正在庫という言葉を聞くと、
「月間使用量の1か月分」
「安全在庫を含めて1.5か月分」
といった数字を思い浮かべるかもしれません。
もちろん、目安としては必要です。
しかし、すべての材料や部品を同じ基準で管理してよいわけではありません。
たとえば、同じ月100個使う部品でも、
国内でいつでも購入できる部品。
海外から船便で3か月かかる部品。
一社からしか購入できない特殊部品。
複数の仕入先から買える汎用品。
では、持つべき在庫量は違います。
使用量だけではありません。
適正在庫を考えるなら、
- 使用量
- 調達リードタイム
- 最小発注ロット
- 需要の変動
- サプライヤーの供給能力
- 一社購買か複数購買か
- 国内調達か海外調達か
- 代替材の有無
- 代替仕入先の有無
- 品質リスク
- 製品の終息予定
などを見なければなりません。
つまり、
適正在庫とは、一つの計算式から自動的に出てくる数字ではなく、複数の条件を見ながら会社として決める数量
なのです。
在庫を一律に減らしてはいけない
在庫削減の活動で起きやすいのが、
「全在庫を20%削減する」
といった一律目標です。
分かりやすいですし、管理もしやすい。
しかし、調達側から見ると危険なことがあります。
たとえば、
いつでも手配できる国内汎用品を3か月分持っている。
これは減らせるかもしれません。
一方で、
海外の一社からしか調達できず、納期が4か月かかる重要部品。
これまで1.5か月分しか持っていなかったとしたら、むしろ増やした方がいい可能性があります。
どちらも同じ「在庫」ですが、意味はまったく違います。
だから在庫削減では、
何個減らしたか
だけではなく、
なぜ減らせるのか
を見る必要があります。
逆に、
なぜこれは持っておかなければならないのか
も説明できなければなりません。
在庫設計とは、
単純な削減活動ではなく、
必要なところに必要な量だけ資金を置くこと
なのだと思います。
在庫が増えていく会社には理由がある
在庫は、誰かが意図的に増やそうとして増えるとは限りません。
むしろ、少しずつ積み重なっていくことが多いものです。
「念のため多めに買っておこう」
「前回欠品したから、今回は多めにしよう」
「このロットでしか買えないから仕方がない」
「値上げ前に買っておこう」
「営業から急な注文が入るかもしれない」
一つひとつの判断には理由があります。
しかし、その判断を何度も繰り返しているうちに、
気付けば在庫が膨らんでいる。
そして、
「なぜこの数量を持っているのですか」
と聞いても、
「昔からこのくらいです」
という答えしか返ってこなくなる。
ここが危険です。
在庫そのものが問題なのではありません。
在庫量を決めた理由が分からなくなっていること
が問題なのです。
在庫は、会社の資金そのもの
在庫を考えるとき、まず忘れてはいけないのが資金です。
在庫として倉庫に置かれている材料や部品は、
会社がお金を払って購入したものです。
つまり、在庫が増えるということは、
現金がモノの形に変わっている
ということでもあります。
以前、3か月分ほど積み上げていた部材を見直し、約1.5か月分まで減らしたことで、
約500万円の資金が動かせるようになった
ケースがありました。
500万円あれば、
設備投資にも使える。
採用にも使える。
新しい商品開発にも使える。
運転資金として残しておくこともできます。
在庫削減というと、
「倉庫をきれいにする話」
のように思われることがあります。
しかし、本質的には、
会社のお金をどこに置くのかという資金設計
なのです。
倉庫スペースにもコストがかかっている
在庫は、購入金額だけを見ればよいわけではありません。
置いておく場所にもコストがかかります。
ある企業では、余剰在庫を見直したことで倉庫面積を約20%削減し、
年間約120万円の倉庫賃料を削減できたことがありました。
倉庫に置かれている在庫には、
賃料。
電気代。
棚。
フォークリフト。
管理する人の工数。
棚卸し。
移動。
紛失。
劣化。
さまざまなコストが付いています。
しかも、こうしたコストは在庫単価には見えにくい。
だから、
「昔からここに置いている」
という在庫が、本当は毎年コストを生み続けていることがあります。
在庫を減らすというより、
そのスペースを会社としてもっと価値の高い使い方に変えられないか
と考えた方がいいでしょう。
発注ロットを「仕方がない」で終わらせない
在庫が増える理由として多いのが、最小発注ロットです。
「100個しか使わないけれど、1,000個単位でしか買えない」
だから、余った900個を在庫として持つ。
確かによくある話です。
しかし、
「ロットだから仕方がない」
で終わってしまえば、改善は止まります。
たとえば、
サプライヤー側で分割納入してもらえないか。
年間数量を約束して都度納入にできないか。
共同購買できる会社はないか。
他の材料に置き換えられないか。
別の加工方法に変えられないか。
代替サプライヤーはないか。
考えられることはいくつもあります。
調達の仕事は、
提示された条件で買うだけではありません。
在庫を生み出している購買条件そのものを見直すこと
も調達の仕事です。
「欠品が怖い」から増えた在庫をどう考えるか
現場では、
「在庫を減らして欠品したら誰が責任を取るのか」
という不安があります。
これは非常に自然です。
生産を止めるより、少し多めに在庫を持っておいた方が安心だからです。
ただし、
不安だけを理由に在庫を増やしていけば、際限がありません。
そこで必要になるのが、
何が起きたら、どれくらい足りなくなるのか
を考えることです。
たとえば、
通常の納期は2週間。
最大遅延したときは4週間。
月間使用量は100個。
需要変動は±20%。
代替仕入先はある。
と分かっていれば、
どの程度の安全在庫を持てばいいか考えられます。
一方で、
納期も曖昧。
使用量も感覚。
サプライヤーの能力も分からない。
となれば、
結局、
「念のため多めに」
という判断しかできません。
在庫削減の前に必要なのは、
在庫を決めるための情報を揃えること
なのです。
在庫を減らすには、サプライヤーとの関係も重要になる
在庫は自社だけで決められるものではありません。
調達リードタイム。
発注ロット。
納入頻度。
急な増産への対応。
これらは、サプライヤーとの関係によって大きく変わります。
たとえば、
従来は月1回100個まとめて納入していたものを、
毎週25個ずつ納入してもらえるようになれば、
自社側で持つ在庫は減らせます。
サプライヤーと情報共有し、
生産計画を早めに伝えることで、
必要以上に在庫を持たなくても安定供給できることもあります。
つまり在庫削減は、
サプライヤーに在庫を押しつけることではありません。
サプライチェーン全体で、どこに在庫を持つのが最も合理的かを考えること
です。
ここまで考えて、初めて「在庫設計」になります。
在庫は、減らすだけでなく増やす判断も必要になる
「在庫削減」という言葉が先に立つと、
在庫を増やすことが悪い判断のように見えます。
しかし、場合によっては在庫を増やすべきです。
海外一社購買。
地政学リスクが高い。
サプライヤーの経営状態に不安がある。
災害時に調達が止まりやすい。
代替品がない。
停止すると顧客への影響が極めて大きい。
こうした品目なら、
意図的に安全在庫を厚くする方が合理的なこともあります。
大切なのは、
減らしたか。
増やしたか。
ではありません。
その判断に根拠があるか。
です。
在庫とは、
余っているモノではなく、
会社が供給リスクに対してどれだけ資金を置くのかという経営判断
でもあるのです。
調達が見るべきなのは「在庫金額」だけではない
在庫管理は製造部門や生産管理部門の仕事だと思われることがあります。
もちろん、日々の在庫数量を管理する役割はそうかもしれません。
しかし、在庫が生まれる原因の多くは、
調達条件と関係しています。
リードタイム。
発注ロット。
単価。
契約条件。
サプライヤー数。
海外調達。
納入頻度。
支給材。
MOQ。
こうした条件を変えられるのは、調達部門です。
だから私は、
在庫は調達の仕事でもある
と考えています。
在庫数量だけを見て、
「多いから減らしてください」
と言うのではなく、
なぜこの数量になっているのか。
どの購買条件が在庫を生み出しているのか。
そこまで見る必要があります。
RE:GENの視点――在庫は「モノ」ではなく「判断の結果」
在庫を見ていると、その会社の調達の考え方が見えることがあります。
昔から買っている数量。
なんとなく決められた安全在庫。
変更されない発注ロット。
一社から買い続けている部品。
「念のため」で増えていった在庫。
一つひとつを見ると、それぞれ理由があります。
しかし、その理由が積み重なった結果が、
今の在庫です。
だから私は、
在庫はモノではなく、過去の判断が積み重なった結果
だと思っています。
そして、その判断を一度分解してみる。
なぜ、この数量なのか。
なぜ、このロットなのか。
なぜ、この納期なのか。
なぜ、この仕入先なのか。
なぜ、代替先がないのか。
ここを見直すと、
単なる在庫削減ではなく、
調達そのものの改善が始まります。
そしてもう一つ大切なのは、
誰か一人の経験だけで在庫量を決めないこと
です。
「この部品は長年やっている○○さんが3か月分必要と言っている」
それだけでは、会社の判断にはなりません。
なぜ3か月なのか。
その理由を会社として説明できる状態にする。
そうすれば担当者が代わっても、同じ考え方で判断できます。
在庫設計は、
資金管理であり、
リスク管理であり、
調達の標準化でもあるのです。
利は、元にある
在庫には、会社のお金が入っています。
必要以上に持てば、資金が眠る。
少なすぎれば、生産が止まる。
だから、
「在庫を減らすこと」
そのものを目的にしてはいけません。
必要なのは、
会社にとって、どこに、どれだけ在庫を持つのが最も合理的なのかを設計すること。
調達条件を見直す。
仕入先との関係を見直す。
発注ロットを見直す。
リードタイムを見直す。
代替先を考える。
その一つひとつが、会社の資金の使い方を変えていきます。
利は、元にある。
利益を生み出す前の段階で、
どれだけの資金を、
どんな理由で在庫として置いているのか。
ここにも、会社を強くするための「元」があります。
まとめ──在庫削減ではなく、適正在庫を設計する
在庫は、
少なければよいものでも、
多ければ安心というものでもありません。
大切なのは、
なぜ、その数量を持つのか
を会社として決めることです。
使用量。
リードタイム。
発注ロット。
需要変動。
供給リスク。
代替可能性。
サプライヤーとの関係。
こうした条件を一つずつ確認し、
減らすべき在庫は減らす。
持つべき在庫は持つ。
場合によっては増やす。
それが、本当の意味での適正在庫だと思います。
「在庫は持つな」ではなく、
在庫は設計せよ。
在庫を調達の視点から見直すことは、
単なるコスト削減ではありません。
資金を動かし、
供給リスクを抑え、
会社が次の一手を打てる状態をつくることです。
在庫の見直しは、コスト削減全体の一部でもあります。仕入先・発注量・商流・仕様・内外製までまとめて見る全体像は【中小製造業のコスト削減|5つの見直し方】に整理しています。
RE:GENでは、調達条件、在庫、仕入先、発注方法などを可視化し、中小製造業が「なぜこの数量を持つのか」を説明できる調達づくりを支援しています。
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