調達担当が見ているのは、技術の「すごさ」だけではない
工場を訪問したとき、思わず足を止める加工があります。
職人の手で整えられたきさげ面。
乱れの少ない溶接ビード。
無理なく曲げられたパイプ。
真っすぐに抜けた深穴。
その仕上がりを見て、
この会社は、いい仕事をしている
と感じることは確かにあります。
しかし、調達担当が見ているのは、目の前にある一つの製品だけではありません。
- 同じ品質を繰り返し出せるか
- 担当者が変わっても再現できるか
- 生産量が増えても対応できるか
- 不具合が起きたときに原因を説明できるか
- 数年後も安定して供給できるか
こうした点まで含めて、取引先としての技術力を判断します。
どれほど高度な技術を持っていても、それが一人の職人の感覚だけに頼り、測定結果や工程条件が残されていなければ、調達担当にはリスクとして映ることがあります。
反対に、技術の難しさ、その管理方法、品質を維持する仕組みまで説明できる会社は、調達担当から高く評価されます。
今回は、私が製造業の調達現場で見てきた中から、特に会社の技術力が表れやすい5つの加工と、その技術を調達担当へ伝える方法を紹介します。
1.きさげ仕上げ──手作業の技を、測定結果で伝える
きさげは、工作機械の摺動面などを手作業で削り、接触状態や平面度を調整する加工です。
一見すると、表面に独特の模様を付けているように見えます。
しかし、その目的は見た目を美しくすることではありません。
適切な接触点をつくり、油を保持し、摺動を滑らかにすることで、機械の精度や寿命を支えています。
きさげ面の整い方は、丁寧な仕事を知る一つの手がかりです。
ただし、模様が美しいだけで、求められる性能を満たしているとは限りません。
調達担当が本当に知りたいのは、
- どの程度の平面度を出せるのか
- 接触点をどのように確認しているのか
- 何を合格基準としているのか
- 作業者によるばらつきをどう抑えているのか
という点です。
調達担当への伝え方
作業後の写真だけでなく、測定結果や当たりの確認方法を示します。
可能であれば、加工前と加工後で精度がどのように変わったのか、実際の数値で説明すると伝わりやすくなります。
また、
なぜ、この部分にきさげが必要なのか
きさげを行わなければ、どのような問題が起きるのか
まで説明できれば、単なる職人技ではなく、製品機能を支える技術として評価されます。
2.溶接──外観だけでなく、内部品質と再現性を見せる
均一に並んだ溶接ビードを見ると、作業の丁寧さや熟練度を感じます。
しかし、溶接の品質は外観だけでは判断できません。
表面が美しくても、内部に溶込み不足、割れ、ブローホールなどの欠陥が生じている可能性があります。
また、強度を満たしていても、入熱の影響によって製品が大きく歪み、後工程で修正が必要になる場合もあります。
そのため、調達担当は次のような点を確認します。
- 溶接条件が標準化されているか
- 作業者の資格や教育状況
- 歪みを抑える工程設計
- 外観検査と内部検査の方法
- 不具合が発生した際の記録と対策
- 作業者が変わっても品質を維持できるか
調達担当への伝え方
溶接部の写真だけでなく、検査基準、作業標準、強度試験や非破壊検査の結果を示します。
特に、
この材質と板厚では、どのような順序で溶接するのか
歪みをどのように予測し、抑えているのか
を説明できる会社は、経験を組織の知識に変えていると評価されます。
美しいビードは入口です。
その美しさを毎回再現できる仕組みがあって、初めて安定した技術力になります。
3.ロウ付け──温度だけでなく、接合条件全体を管理する
ロウ付けは、母材を溶かさず、母材より融点の低いロウ材を流し込んで接合する方法です。
銅管、真鍮部品、熱交換器など、気密性や接合強度が求められる製品に使われます。
ロウ付けでは、温度管理が重要です。
しかし、温度だけを管理すればよいわけではありません。
- 接合部の隙間
- 加熱の順序
- ロウ材の量
- フラックスの使用方法
- 加熱後の洗浄
- 母材表面の状態
など、複数の条件が品質に影響します。
仕上がりがきれいで、余分なロウ材やフラックス残りが少ないことは、作業管理の丁寧さを知る手がかりになります。
ただし、最終的な評価には、強度や気密性の確認が欠かせません。
調達担当への伝え方
温度管理の基準だけでなく、接合部の隙間をどのように管理しているか、気密検査や強度確認をどう行っているかを伝えます。
不良が起きやすい条件と、それを防ぐための工夫まで説明できれば、単に作業が上手なだけでなく、工程を理解して管理している会社だと伝わります。
4.パイプ曲げ──図面寸法の先にある「使える品質」を示す
パイプ曲げは、指定された角度や寸法に曲げれば終わりではありません。
曲げ部分では、外側の肉厚が薄くなり、内側にはシワが発生しやすくなります。
断面がつぶれたり、内径が狭くなったりすれば、配管としての流量や強度に影響します。
また、材料には曲げた後に少し戻ろうとする「スプリングバック」があるため、材質やロットによって仕上がり寸法が変化することもあります。
調達担当が確認するのは、完成品の外形寸法だけではありません。
- 曲げ部分の扁平率
- 肉厚の減少
- シワや割れの有無
- 曲げ角度のばらつき
- 治具や金型の管理
- 材料ロットによる変化への対応
なども重要です。
調達担当への伝え方
曲げ加工後の断面写真や内視鏡画像、寸法測定データを示します。
特に、
図面どおりに曲げられる
だけでなく、
配管として必要な内径と強度を維持したまま曲げられる
ことを示す必要があります。
その加工が、後工程や最終製品にどのような効果をもたらすのかまで伝えると、技術の価値が理解されやすくなります。
5.深穴加工──見えない場所の品質を、数字で見えるようにする
深穴加工は、穴径に対して深さが大きい穴を加工する技術です。
穴が深くなるほど、
- 工具が曲がる
- 穴の中心がずれる
- 切粉が詰まる
- 冷却液が届きにくくなる
- 工具が摩耗する
- 加工面が荒れる
といった問題が起きやすくなります。
完成後は内部が見えにくいため、外観だけでは加工品質を判断できません。
だからこそ、加工条件の設定、工具管理、切粉排出、測定方法に、その会社の技術力が表れます。
調達担当への伝え方
加工可能な穴径と深さだけでなく、
- 穴の真直度
- 入口と出口の位置ずれ
- 内面粗さ
- 寸法のばらつき
- 工具交換の基準
- 測定方法
を示します。
「これほど深い穴を加工できます」という設備能力だけでは不十分です。
その品質を、どのように確認し、繰り返し維持しているのか
まで伝えることで、技術への信頼が生まれます。
若手が技術を担っている会社に、調達担当が期待する理由
高度な加工ができる会社でも、その技術を一人のベテランだけが持っている場合、調達担当は将来の供給に不安を感じます。
その人が退職したら、同じ品質を出せるのか。
受注量が増えたとき、ほかの作業者でも対応できるのか。
技術の継承は、企業内部の人材問題であると同時に、顧客にとっては供給リスクの問題でもあります。
調達担当が若手の姿を見るのは、若い人がいるかどうかを確認するためだけではありません。
- ベテランの技能が言葉や基準になっているか
- 若手に段階的に仕事を任せているか
- 教育記録や技能認定があるか
- 失敗を振り返る仕組みがあるか
- 複数の人が同じ工程を担当できるか
を見ています。
技術継承ができている会社は、単に人を育てている会社ではありません。
顧客への供給を、個人の力から組織の力へ変えている会社です。
技術力は、伝わらなければ比較できない
製造現場には、優れた技術を持ちながら、その価値を十分に伝えられていない会社が少なくありません。
工場見学で、
これは長年の勘です
うちでは普通にやっています
見れば分かるでしょう
と説明されることがあります。
しかし、初めて訪れた調達担当には、その技術の難しさや価値までは分かりません。
伝えるべきなのは、自社が「できる」という事実だけではありません。
- 何が難しい加工なのか
- どのような工夫で実現しているのか
- どの数値まで保証できるのか
- ばらつきをどう抑えているのか
- 顧客にどのような利益をもたらすのか
- 技術を将来へどう残しているのか
まで整理する必要があります。
たとえば、
高精度な加工ができます
ではなく、
従来は仕上げ加工が必要だった部品を、この工程だけで要求精度まで仕上げられるため、後工程と納期を短縮できます
と説明すれば、顧客にとっての価値が見えます。
技術の説明を、設備自慢や職人自慢で終わらせず、品質、コスト、納期、供給安定性という顧客の言葉へ翻訳することが重要です。
RE:GENの視点──隠れた技術を「選ばれる理由」に変える
調達担当は、優れた技術を探しています。
しかし、技術が高度であれば、自動的に選ばれるわけではありません。
調達担当が社内で採用を進めるためには、
なぜ、この会社でなければならないのか
を、設計、品質、製造、経営へ説明する必要があります。
そのために必要なのが、技術の見える化です。
- 加工サンプル
- 測定データ
- 工程写真や動画
- 作業標準
- 検査記録
- 改善事例
- 技能継承の仕組み
- 顧客に与える効果
こうした情報が整理されていれば、調達担当は技術の価値を社内へ伝えやすくなります。
RE:GENは、大手メーカーの調達部門で培った視点をもとに、製造業の技術や現場の工夫を整理し、顧客に伝わる言葉とデータへ変える支援を行っています。
技術そのものを変えるのではありません。
すでに社内にある技術の価値を見つけ、正しい相手へ、正しく届く形に変えていきます。
まとめ──調達担当が信頼するのは、技術を説明できる会社
調達担当が「この会社に任せたい」と感じるのは、珍しい設備や高度な職人技を持つ会社だけではありません。
- 技術の難しさを説明できる
- 品質を数値で示せる
- 同じ結果を繰り返し出せる
- 不具合の原因を追跡できる
- 技術を次の世代へ引き継いでいる
- 顧客にとっての効果を伝えられる
こうした会社です。
外観の美しさは、技術力を知る入口になります。
しかし、本当の信頼をつくるのは、その品質を支える工程、管理、データ、そして人です。
技術力があること。
その技術を再現できること。
そして、その価値を顧客に伝えられること。
この三つがそろったとき、技術は単なる社内の強みではなく、顧客から選ばれる理由になります。
「ちょっと話を聞いてみたい」でも大歓迎です。
まずはお気軽にご相談ください。
お問い合わせはこちら
コメント