化学物質規制が世界的に強化される中、メーカーの調達部門に「ケムシェルパ(chemSHERPA)の提出をお願いします」と言われる機会が急増しています。
しかし、提出する側(サプライヤー)はこう思っていることが多いです。
- 何のために提出しているのかよくわからない
- どこまで記入すればよいのか曖昧
- “ケムシェルパ担当” がいない
- とりあえず書類を埋める作業になっている
調達の現場にいると、
「意味がわからないまま対応しているサプライヤーが多い」
という実感があります。
この記事では、
- ケムシェルパ(chemSHERPA)が何か
- なぜ必要なのか
- サプライヤーは“具体的に何をすれば良いのか”
- 調達はどう活かすのか
を RE:GEN らしく、実務に落ちる形で、誰にでもわかるレベルで 解説します。
## 1. ケムシェルパ(chemSHERPA)とは?
一言でいえば、
「製品の中にどんな化学物質が入っているか」を、共通フォーマットで伝える仕組み
です。
● なぜ必要になったか?
世界中で化学物質に関する規制が強化されているためです。
- RoHS指令(EU):鉛、水銀など特定有害物質を禁止
- REACH規則(EU):高懸念物質(SVHC)などの管理
- POPs条約:残留性有機汚染物質
- PFAS規制:有機フッ素化合物の規制加速
どれかに“引っかかった”部品が使われているだけで、
その製品は海外で売れなくなります。
つまりケムシェルパは、
製品が市場に出られるかどうかの「通行許可証」 なのです。
## 2. なぜ調達部門はサプライヤーに提出を求めるのか?
理由はシンプルです。
✔ 1. 製品に使用されている化学物質を企業が把握していないと販売できない
✔ 2. 部品ごとに化学物質が違うため、サプライヤーの情報が必須
✔ 3. トラブル発生時に「どの部品が原因か」特定する必要がある
つまりケムシェルパは、
サプライヤー → メーカー → 最終製品
の一連の情報伝達を成り立たせる “共通言語” です。
## 3. ケムシェルパの公式情報(リンク)
公式サイト(経済産業省 管轄):
- ダウンロード(ツール本体)
- 各種ガイドライン
- FAQ
- セミナー資料
すべてここで閲覧できます。
## 4. ケムシェルパ(chemSHERPA)は何を見るのか?(重要)
調達側が確認しているのは たった3点 です。
✔ ① 禁止物質が入っていないか
例:鉛、水銀、六価クロム、カドミウム、特定フタル酸、PBB、PBDE など
✔ ② 入っていたとしても“基準値以下”か
含有率が規制値を超えればアウトです。
✔ ③ 情報源(エビデンス)が明確か
- 材料メーカーのSDS(安全データシート)
- 部品メーカーの仕様
- 分析結果
「うちは大丈夫です!」では通りません。
“根拠” が必要です。
## 5. サプライヤーはケムシェルパで “実際に何をするのか”
ここが一番重要なのに、きちんと説明されません。
RE:GEN流に、超わかりやすく分解します。
🔧
STEP1:材料リストを作る(BOMの準備)
製品を構成する、
- 樹脂
- 金属
- 基板
- 塗料
- 接着剤
- 表面処理
など、全部を書き出します。
🔧
STEP2:材料ごとにSDS(安全データシート)を集める
SDSは材料メーカーが作成しています。
ここに 含有物質の情報が書かれています。
- 樹脂なら樹脂メーカー
- 塗料なら塗料メーカー
- メッキなら表面処理業者
サプライヤーの多くはここでつまずきます。
🔧
STEP3:chemSHERPAツールに“転記”する
公式ツール(Excelに似た形式)に、
以下を入力します:
- 使用した材料名
- 構成比(だいたいでOK)
- 含有物質(SDSから)
- 規制物質の有無
- 閾値超過の有無
難しそうに見えるが、やっていることは“転記”です。
🔧
STEP4:製品単位でまとめる(XML生成)
chemSHERPAツールが自動で
最終製品データ(XML) を生成してくれます。
🔧
STEP5:メーカーへ提出(メール・ポータル)
多くのメーカーは提出方法が決まっています。
- メール添付
- 専用ポータル(トヨタ、デンソー、パナなど)
- EDIアップロード
提出後、
不備があると差し戻し されます。
## 6. 調達はこの情報をどう使うのか?(RE:GENの視点)
調達はケムシェルパを“書類”として扱いません。
✔ 調達は “リスクの早期検知装置” として見る
以下のサプライヤーは、
品質・納期リスクが高い傾向があります:
- 回答が遅い
- エビデンスが曖昧
- 担当者が理解していない
- S D S を揃えられない
- 「言われたから提出している」状態
こういう会社は総じて
材料管理が弱く、トレーサビリティも不十分。
つまり、
ケムシェルパ対応力 = サプライヤーの成熟度
と考えてよい。
## 7. 調達担当が持つべきスタンス
サプライヤーに対して
「提出してください」
ではなく、
「一緒にリスクを管理しましょう」
という姿勢。
- 助けられるところは助ける
- でも規制対応は絶対
- 何度も出している会社は成熟度が高い
- 1回目で理解できなくても育てればいい
- サプライヤーを叱るのではなく、鍛える
RE:GEN が調達支援で重視しているのは、
書類ではなく“関係性と安全性” です。
## 8. まとめ──ケムシェルパは「面倒な書類」ではなく、命綱である
- chemSHERPAは化学物質情報の標準フォーマット
- 世界の規制対応に必須
- サプライヤーの成熟度が問われる
- 調達は書類集めではなくリスク管理
- 企業を守るための“共通言語”である
ケムシェルパを正しく理解すると、
ただの書類提出から、
「サプライチェーン全体の安全をつくる仕事」
に変わります。
RE:GEN は、中小メーカーが
こうした“調達実務の意味”を理解し、
自信を持って対応できるよう支援していきます。
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