「利益を増やすために、コストを下げたい」
そう考えたとき、多くの企業が最初に思い浮かべるのは、仕入先への値下げ交渉ではないでしょうか。
確かに、購入価格が下がれば、その分だけ利益は増えます。
しかし、仕入先へ一方的に値下げを求める方法には限界があります。
無理な値下げを続ければ、品質の低下、納期遅延、改善提案の減少、取引からの撤退といった別の問題を招くかもしれません。
コスト削減とは、仕入先の利益を削ることではありません。
見直すべきなのは、価格そのものだけではなく、
- どこから買っているのか
- どのような条件で発注しているのか
- どれだけ在庫を持っているのか
- どのような商流になっているのか
- 本当にその仕様が必要なのか
- 内製と外注の分担は適切か
といった、価格が決まる前の条件です。
本記事では、30年以上にわたり製造業の調達に携わってきた経験から、中小製造業が取り組むべき5つのコスト削減策を解説します。
コスト削減は「安く買うこと」ではない
仕入価格が100万円から90万円になれば、帳簿上は10万円のコスト削減です。
しかし、その結果として不良品が増えたり、納期遅延で生産が止まったりすれば、会社全体ではかえってコストが増えることがあります。
反対に、購入価格が少し高くても、
- 品質が安定している
- 納期を守ってくれる
- 緊急時に対応してくれる
- 改善提案を出してくれる
- 在庫を保有してくれる
といった価値があれば、トータルでは安くなる場合があります。
そのため、コスト削減を考える際は、購入価格だけではなく、品質、不良、在庫、物流、管理工数、生産停止のリスクまで含めて判断しなければなりません。
これを、一般に総コストやトータルコストの視点といいます。
1.仕入先と調達ルートを見直す
長年同じ仕入先から購入していると、価格や条件が固定化しやすくなります。
取引が長いこと自体は悪いことではありません。
品質や納期が安定し、互いの事情を理解している仕入先は、会社にとって大切な財産です。
一方で、
昔からこの会社に頼んでいるから
他に作れる会社を知らないから
価格を比較したことがないから
という理由だけで取引を続けている場合は、見直しの余地があります。
まず確認したいこと
仕入先を増やす前に、現在の調達状況を整理します。
- どの品目に、年間いくら使っているか
- 一社だけに依存している品目はないか
- 数年間、価格や条件を確認していない品目はないか
- 品質、納期、価格に問題のある仕入先はないか
- 代替可能な材料や加工方法はないか
年間購入金額の大きい品目から順番に並べるだけでも、優先的に見直すべき対象が見えてきます。
新規仕入先は、値下げの道具ではない
新しい仕入先を探す目的は、既存の仕入先を脅して価格を下げさせることではありません。
新しい技術、設備、生産方法、材料調達力を持つ会社と出会うことで、これまでとは違う改善案が生まれる可能性があります。
また、一社依存を減らせば、災害、設備故障、廃業などによる供給停止のリスクも下げられます。
ただし、仕入先を増やせば、管理や監査の負担も増えます。
単純に社数を増やすのではなく、
何のために新しい仕入先が必要なのか
を明確にすることが重要です。
海外調達は、購入価格だけで判断しない
海外調達によって、材料費や加工費を下げられる場合があります。
しかし、購入価格が安いからといって、必ずしも総コストが下がるとは限りません。
海外調達では、次のような費用とリスクを考える必要があります。
- 輸送費
- 関税
- 為替変動
- 最低発注数量
- 長いリードタイム
- 品質確認
- 現地とのコミュニケーション
- 不具合発生時の対応
- 在庫の増加
- 政治・災害リスク
国内で1個1,000円、海外で1個700円だったとしても、輸送費や在庫、不良対応まで含めれば、海外品の方が高くなることもあります。
海外調達は「安い国から買う」ことではなく、自社に適した供給体制を設計することです。
2.発注量と在庫を見直す
在庫は、将来の売上を支えるために必要です。
一方で、使われずに残っている在庫は、会社の資金を寝かせています。
在庫が増えると、購入代金だけでなく、
- 倉庫費用
- 保管作業
- 棚卸し
- 品質劣化
- 型落ち
- 設計変更による廃棄
といったコストも発生します。
ただし、在庫を減らせばよいという単純な話ではありません。
在庫を減らしすぎると、欠品や生産停止のリスクが高まります。
重要なのは、必要な在庫と、理由なく積み上がった在庫を分けることです。
在庫が増える代表的な原因
- 発注ロットが大きすぎる
- 需要予測が更新されていない
- 念のための発注が積み重なっている
- 製造部門が作れるだけ作っている
- 長納期品を過剰に確保している
- 使用しなくなった材料が残っている
- 営業、製造、調達の情報がつながっていない
特に内製中心の会社では、設備や人が空いているときに「先に作っておこう」と生産し、そのまま過剰在庫になることがあります。
設備を動かしているため効率的に見えますが、売れる前の商品に材料費、人件費、保管費を使っています。
発注ロットと単価の関係を見る
発注量を増やすと、1個当たりの単価は下がりやすくなります。
しかし、単価を下げるために大量購入し、使い切れない在庫を抱えれば、会社全体では損をします。
たとえば、1個100円の商品を1,000個買う場合と、1個90円で2,000個買う場合を比較すると、単価は10円下がります。
しかし、必要数量が1,000個であれば、追加の1,000個に9万円の資金を使うことになります。
大切なのは単価ではなく、
いつまでに、何個使い切れるのか
です。
発注量を決める際は、購入単価だけでなく、在庫期間、消費見込み、廃棄リスクを合わせて判断します。
最初に取り組むこと
まずは、長期間動いていない在庫を抽出します。
- 6か月以上動いていない
- 1年以上動いていない
- 使用予定が分からない
- 対象製品が生産終了している
といった在庫を一覧にすると、問題が見えやすくなります。
責任者を決め、使用、転用、売却、返品、廃棄の判断を行います。
在庫削減は、単なる倉庫整理ではありません。
会社の中で眠っている現金を、再び使える状態に戻す活動です。
3.商流と購買業務を見直す
長年続いている取引では、
なぜこの商社を通しているのか
なぜこの手順で発注しているのか
が分からないまま、商流や業務が固定化していることがあります。
商流を見直すことで、中間マージンや管理工数を減らせる可能性があります。
ただし、
商社を外して、メーカーと直接取引すれば安くなる
と単純に考えるのは危険です。
商社が担っている機能を確認する
商社は、商品を右から左へ流しているだけとは限りません。
- 小口発注への対応
- 在庫保有
- 複数メーカー品の取りまとめ
- 物流
- 与信
- 海外とのやり取り
- 不具合発生時の調整
- 技術情報の提供
などの役割を担っている場合があります。
商社を外すと、これらの業務を自社で行わなければなりません。
そのため、商流を見直す際は、マージンの有無だけでなく、
その会社が、どのような価値を提供しているのか
を確認します。
価値が見合っていれば、商社を通すことには意味があります。
反対に、実質的な機能がなく、伝票だけが増えている商流であれば、整理する余地があります。
社内の購買業務にもコストがかかっている
コスト削減というと、外部への支払額だけを見がちです。
しかし、社内で発生する業務にも人件費がかかっています。
- 少額品を何度も発注する
- 紙やメールで承認を回す
- 同じ情報を何度も入力する
- 発注後の納期確認を繰り返す
- 請求書と発注内容を手作業で照合する
こうした作業が積み重なると、購入金額以上の管理コストが発生することもあります。
少額品の発注方法を統一する、発注日をまとめる、定型品をカタログ化するなど、購買業務そのものを見直すことも重要なコスト削減です。
4.仕様・品質条件とサプライヤーとの関係を見直す
価格を決めているのは、仕入先だけではありません。
自社が指定している仕様、品質基準、検査方法、納期条件が、価格を押し上げている場合があります。
たとえば、
- 必要以上に厳しい寸法公差
- 過剰な外観基準
- 全数検査
- 特殊な梱包
- 短すぎる納期
- 自社専用の材料
- 使用目的に対して高すぎる材質
などです。
以前から使われている図面や仕様であっても、現在の使用条件に本当に必要かどうかは、改めて確認する価値があります。
「高い」の原因が、自社にあることもある
仕入先へ価格を下げてほしいと依頼しても、
この公差では専用設備が必要です
この検査基準では全数測定が必要です
この納期では在庫を持たなければ対応できません
と言われることがあります。
この場合、仕入先の利益率ではなく、自社の要求条件が価格を高くしています。
設計、品質、製造、調達が一緒になって条件を見直せば、品質を落とさずにコストを下げられる場合があります。
これを、VE・VAや仕様最適化と呼ぶこともあります。
サプライヤー評価は、点数を付けて終わりではない
サプライヤー評価や監査も重要です。
ただし、評価表を作り、点数を付けるだけでは何も変わりません。
評価の目的は、
- 取引を拡大する会社
- 改善を支援する会社
- リスク対策が必要な会社
- 取引を見直す会社
を判断し、行動につなげることです。
価格だけでなく、品質、納期、技術力、改善力、供給安定性などを総合的に評価します。
信頼できるサプライヤーとは、値下げを要求するだけの関係ではなく、互いの工程や課題を理解し、一緒にコストを下げられる関係をつくることが大切です。
仕入先を同じ物差しで見る方法は【サプライヤー評価の6つの基本項目】にまとめています。
5.内製と外注のバランスを見直す
「簡単なものは内製する」
「数量が多いものは内製する」
この判断が、必ずしも正しいとは限りません。
内製すると、外注費が発生しないため安く見えます。
しかし、実際には、
- 設備の減価償却
- 作業者の人件費
- 電力費
- 設備保全
- 工具や消耗品
- 段取り
- 品質管理
- 不良品
- 生産場所
などのコストがかかっています。
これらを十分に計算せず、
自社で作れば人件費だけだから安い
と判断すると、外注より高い原価になっていることがあります。
内製が向いているもの
- 自社の競争力に直結する技術
- 外部へ出せない機密性の高い工程
- 品質や納期を自社で管理すべき工程
- 設備稼働率を十分に確保できるもの
- 長期的に一定量が見込めるもの
外注が向いているもの
- 専門設備や技術が必要なもの
- 生産量の変動が大きいもの
- 自社設備の稼働率が低いもの
- 外部の方が高い生産性を持つもの
- 自社の強みと直接関係しない工程
内製と外注を判断する際は、目の前の加工費だけでなく、設備投資、固定費、技術継承、供給リスクまで含めて考えます。
また、すべてを内製または外注に決める必要もありません。
通常量は内製し、繁忙期だけ外注する。
重要工程は内製し、前後工程を外部へ出す。
主力仕入先と予備仕入先を持つ。
このように役割を分ける方法もあります。
何から始めればよいのか
5つの施策を一度に進める必要はありません。
最初に行うべきことは、自社が何に、いくら使っているかを把握することです。
1.購入金額を見える化する
仕入先別、品目別、部門別に、年間購入金額を整理します。
金額の大きいもの、値上がりしているもの、一社依存のものを確認します。
2.問題を価格と価格以外に分ける
コストが高い原因が、
- 購入価格
- 発注量
- 在庫
- 仕様
- 商流
- 社内業務
- 内外製の判断
のどこにあるのかを整理します。
3.効果と難易度で優先順位を付ける
削減効果が大きくても、品質や供給へのリスクが高い施策は、慎重に進める必要があります。
一方、発注方法の統一や休眠在庫の整理など、比較的取り組みやすい施策もあります。
期待効果、必要期間、実行の難しさ、リスクを比較し、優先順位を決めます。
まとめ──コスト削減は、会社の仕組みを強くする活動
中小製造業のコスト削減は、仕入先へ値下げを求めることだけではありません。
- 仕入先と調達ルート
- 発注量と在庫
- 商流と購買業務
- 仕様と品質条件
- 内製と外注
を見直すことで、仕入先の利益を無理に削らなくても、コストを改善できる可能性があります。
大切なのは、安く買うことではありません。
品質、納期、供給安定性を維持しながら、会社全体で無駄になっている費用や条件を見つけることです。
コスト削減とは、数字を削る活動ではありません。
自社の調達、生産、在庫、取引の仕組みを見直し、利益を残せる会社へ変えていく活動です。
RE:GENは、30年以上の調達経験をもとに、中小製造業の仕入先開拓、原価の見直し、在庫・商流の改善、内外製判断などを支援しています。
「何から見直せばよいか分からない」
「仕入価格は高いと感じるが、根拠を持って交渉できない」
「値下げではないコスト削減を進めたい」
そのようなお悩みがあれば、まずは現在の調達状況を整理するところから、一緒に考えます。
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よくある質問
Q. コスト削減は何から始めればいいですか?
A. まず「何に、いくら使っているか」の見える化から。
仕入先別・品目別に年間金額を並べ、金額の大きいもの・値上がりしているもの・一社依存のものを確認します。
Q. 値下げ交渉以外に、どんな方法がありますか?
A. 仕入先・調達ルートの見直し、発注量と在庫の適正化、商流と購買業務の整理、仕様・品質条件の見直し、内製と外注のバランス。
価格が決まる前の条件に手を入れます。
Q. 「安く買えた」のに損することがあるのはなぜですか?
A. 購入価格だけ下がっても、不良・納期遅延・在庫増・管理工数が増えれば会社全体ではコスト増になるからです。
総コスト(トータルコスト)で判断します。
Q. 相見積りは毎年取るべきですか?
A. いいえ。理由なく繰り返すと仕入先の工数を奪い信頼を損ねます。
相見積りは価格・条件を客観的に確認する手段であって、圧力の道具ではありません。