基礎編から一歩前へ
前回の【基礎編】では、図面を読む上で欠かせない「寸法・公差・材料」の3点セットを解説しました。
今回の【応用編①】では、そこから一歩進み「この部品はどう作るのか?」を推定する力を養っていきます。
加工方法を推定できると、
- サプライヤー選定(適切な工場を探せる)
- コスト見積り(高い/安いの理由が見える)
- 納期判断(何週間かかるかを想像できる)
といった、調達バイヤーにとって重要な判断材料が手に入ります。
この記事は「図面超入門【応用編】」シリーズのひとつです。
まずは基本から整理したい方は、こちらの記事をご覧ください。
加工方法推定のフレームワーク
金属加工(削る?曲げる?溶接する?)
金属部品は大きく「切削」「板金」「溶接」に分類できます。
- 切削(machining):旋盤、マシニングセンターなどで削り出す。精度が高いがコストも高め。
- 板金(sheet metal):薄板をレーザー切断やプレス加工で曲げる。短納期・量産向き。
- 溶接(welding):複数部材をつなぎ合わせる。図面には「溶接記号(例:Φ, ▽)」が登場。
例:厚さ3mmのプレートに穴が多数 → 切削よりも板金打ち抜きの方が効率的。
樹脂加工(射出成形?切削?ゴム成形?)
プラスチックやゴム部品は、数量・精度・コストによって加工法が変わります。
- 射出成形(injection molding):金型必須。大量生産に強く、単価は安い。ただし初期投資とリードタイムは大きい。
- 切削(resin machining):少量・試作品向き。MCナイロンやアクリルなどを削り出す。
- ゴム成形:加硫や圧縮成形。弾性を活かす部品に使われる。
図面の材質欄に「POM(ジュラコン)」や「PA66(ナイロン66)」とあれば、成形か切削かを判断する必要があります。
セラミック・特殊材(焼結・研削など)
セラミックや超硬材は加工難易度が高く、選定ミスは大きなコスト増に直結します。
- 焼結(sintering):粉末を型に入れて焼き固める。大量生産に強い。
- 研削(grinding):精度が必要な場合。加工時間は長いが仕上がりは極めて精密。
図面に「Al₂O₃(アルミナ)」や「SiC(炭化ケイ素)」と記載されていたら要注意。一般工場では加工できず、専門メーカーに依頼が必要です。
板金 vs 切削(究極の分岐)
同じ部品でも「板金か切削か」で大きな差が出ます。
例:10×100mmの金属プレート
- 板金加工:レーザー切断+曲げ加工。1個あたり数百円、数日で納品。
- 切削加工:角材から削り出し。精度は高いが1個数千円、納期は1〜2週間。
→ 図面に「t(板厚)記号」と「穴ピッチの規則性」があれば板金の可能性大。
バイヤーが知っておくべき材料記号とヒント
- SPCC:冷間圧延鋼板(板金でよく使う)
- SS400:一般構造用鋼(切削や溶接に向く)
- A5052:アルミ合金(板金向き、曲げやすい)
- SUS304:ステンレス(切削性△、溶接◎)
- MCナイロン:樹脂切削に多用される
- アルミナ・ジルコニア:セラミック代表格
図面に出てくるこれらの記号を知っているだけで、加工方法を想像しやすくなります。
推定力がもたらす調達の武器
- コスト感覚
「この図面は板金なら数千円、切削なら数万円」などと想像できれば、相見積で4倍以上の差が出ても慌てない。 - 納期感覚
「射出成形なら金型製作に2か月、切削なら2週間」といった判断ができる。 - 交渉材料
「この穴加工、板金打ち抜きならもっと短納期でできますよね?」といった建設的な質問ができる。
RE:GENからのメッセージ
調達に求められるのは「正解を当てること」ではなく、複数の可能性を持ってサプライヤーに当たることです。
「切削か板金か?」を推定する力は、サプライヤーとの対話を深め、価格や納期の背景を理解する第一歩となります。
私たちRE:GENは、この“推定力”を一緒に育て、現場のリアルに即した調達判断をサポートします。
まとめと次回予告
図面から加工方法を見抜く力は、調達担当者にとっての大きな武器です。
- 金属加工(切削・板金・溶接)
- 樹脂加工(射出成形・切削・ゴム)
- セラミック・特殊材(焼結・研削)
- 板金 vs 切削の分岐
これらを理解することで、コスト・納期・品質を見抜く力が身につきます。
👉 次回の【応用編②】では「表面処理・熱処理」をテーマに、さらに一歩深い“図面の奥”を解説します。
さらに理解を深めたい方へ
この記事は「図面超入門【応用編】」シリーズのひとつです。
まずは基本から整理したい方は、こちらの記事をご覧ください。
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