「調達から中小企業を強くする、とおっしゃるけれど、うちにはそもそも購買部門がありません」
中小製造業の経営者の方と話していると、こうした声を聞くことがあります。
材料は現場が必要に応じて手配している。
外注先とのやり取りは、工場長やベテラン社員に任せている。
価格交渉は、社長自身が長年の付き合いで対応している。
見積の妥当性は、正直なところ担当者の経験に頼っている。
今までは、それでも何とか回っていたかもしれません。
しかし、原材料価格の上昇、人手不足、納期不安、外注先の廃業や高齢化が重なる中で、これまで通りの「何となくの購買」では、利益を守りにくくなっています。
そもそも中小製造業に購買部門は必要か?
結論から言えば、最初から大きな部門を作る必要はありません。ただし、会社として購買を管理する「購買機能」は必要です。
購買部門を立ち上げることは、単に発注担当者を置くことではありません。
会社の利益を守り、ものづくりを安定させるための仕組みを作ることです。
ここで一つ、はっきりさせておきたい定義があります。
中小製造業における購買機能とは、発注作業のことではなく、会社の利益と供給を守るための「判断の仕組み」です。
誰が発注ボタンを押すか、ではありません。何を、どこから、いくらで、なぜ買うのかを、会社として判断できる状態にすること。これが購買機能の本質です。
購買部門を作る前に、まず何をすればいい?
購買部門を作る前に最初にやるべきことは、人の採用ではなく、今の購買の実態を「見える化」することです。
購買部門を立ち上げようとすると、最初に「誰を担当にするか」「人を採用するか」という話になりがちです。
もちろん人は大切です。
しかし、その前に必要なのは、今の購買の実態を見える化することです。
たとえば、次のようなことです。
- 何を、どこから、いくらで買っているのか
- 同じような部品や材料を、複数の部署が別々に買っていないか
- 見積比較はどのように行われているか
- 発注先の選定基準はあるか
- 価格改定の履歴は残っているか
- 納期遅れや品質不具合の情報は共有されているか
- 外注先ごとの強みやリスクを把握しているか
ここが見えていない状態で購買部門だけを作っても、担当者が増えるだけで、会社の利益構造は変わりません。
まずは「今、会社のお金がどのように外へ出ているのか」を把握することが出発点になります。
購買部門の役割は、価格交渉だけではない
購買の役割は、仕入先への値下げ交渉だけではありません。適正な価格での調達、品質・納期の安定、原価構造の把握まで含む、会社の利益と供給を支える機能です。
購買というと、仕入先に値下げをお願いする仕事だと思われることがあります。
しかし、製造業における購買の役割は、それだけではありません。
本来の購買機能には、次のような役割があります。
- 適正な価格で調達する
- 必要なものを、必要な時に確保する
- 品質や納期の安定を支える
- 外注先や仕入先との関係を整える
- 在庫を持ちすぎず、欠品も防ぐ
- 原価構造を把握し、利益を守る
- 現場任せになっている判断を会社の基準に変える
つまり購買は、単なる発注業務ではなく、会社の利益と供給を支える機能です。
特に中小製造業では、購買部門がない会社も少なくありません。
社長、工場長、製造担当、事務担当が、それぞれ必要に応じて発注しているケースもあります。
この状態が長く続くと、悪気はなくても、仕入先の選定や価格判断が属人化していきます。
このとき何が起きるのかは、購買・調達の属人化はなぜ起きるか──判断が会社に残らない状態で詳しく解説しています。
購買担当は何人から必要?最初から大きな部門は要らない
購買担当は「何人から」で決めるものではありません。人数を増やすことより先に、購買の判断基準を作ることが重要です。一人からでも、仕組みがあれば購買機能は成立します。
中小製造業の場合、最初から大企業のような購買部門を作る必要はありません。
大切なのは、人数を増やすことではなく、購買の判断基準を作ることです。
たとえば、最初は次のような小さな仕組みから始めることができます。
- 主要な購入品と外注費を一覧化する
- 金額の大きい取引先から見直す
- 見積比較のルールを決める
- 発注先を決める理由を記録する
- 価格改定の履歴を残す
- 重要仕入先との面談記録を残す
- 購買に関する相談窓口を社内に作る
これだけでも、会社の購買は大きく変わります。
担当者の経験や勘に頼る状態から、会社として判断できる状態へ近づいていきます。
社長が最初に決めるべき5つのこと
購買部門を立ち上げる際、社長が最初に決めるべきことは、次の5つです。
1つ目は、購買を「事務処理」ではなく「利益を守る機能」と位置づけることです。
2つ目は、発注金額の大きい品目や外注先から優先して見える化することです。
3つ目は、価格だけでなく、品質・納期・対応力も含めて仕入先を評価することです。
4つ目は、購買担当者を孤立させず、製造・設計・営業・経理とつなげることです。
5つ目は、属人化している判断を、少しずつ会社の基準に置き換えることです。
購買部門は、誰か一人にすべてを任せれば完成するものではありません。
社長が「会社として購買をどう扱うか」を決めることで、初めて機能し始めます。
購買部門の立ち上げでよくある失敗
購買部門の立ち上げでよくある失敗は、担当者を決めただけで満足してしまうこと、そしていきなり価格交渉から始めてしまうことです。
担当者を置けば、確かに窓口はできます。
しかし、発注ルール、見積比較、仕入先評価、価格改定の記録、在庫との連動がなければ、担当者は日々の処理に追われるだけになります。
もう一つの失敗は、いきなり価格交渉だけに走ることです。
もちろん価格は重要です。
しかし、現状を把握しないまま値下げだけを求めると、仕入先との関係が悪化したり、品質や納期に影響が出たりすることがあります。
購買改革は、単なる値下げ活動ではありません。
会社の支出を見える化し、判断基準を整え、仕入先との関係を再設計する取り組みです。
何から手をつける?まず取り組むべきは「現状可視化」
購買部門を立ち上げたいと考えたとき、最初に取り組むべきことは現状可視化です。システムや人の採用は、その後で構いません。
- どこに、いくら使っているのか
- どの仕入先に依存しているのか
- どの品目の価格が上がっているのか
- どの取引が担当者任せになっているのか
- どこに改善余地があるのか
ここが見えると、次に何をすべきかが明確になります。
逆に、ここが見えないまま仕組みやシステムを入れても、現場に定着しにくくなります。
購買部門の立ち上げは、システム導入よりも前に、会社のお金の流れと判断の流れを整理することから始めるべきです。
具体的にどの視点で調達コストを見直すかは、調達コストを見直す5つの視点で詳しく解説しています。
よくある質問(FAQ)
Q. 中小企業に購買部門は必要ですか?
大きな部門は必要ありませんが、「購買機能」は必要です。発注担当を置くことではなく、何を・どこから・いくらで・なぜ買うのかを会社として判断できる仕組みを持つこと。これは従業員数の多少にかかわらず、利益を守るために欠かせません。
Q. 購買担当は何人から必要ですか?
人数で決まるものではありません。一人でも、判断基準と記録の仕組みがあれば購買機能は成立します。逆に、担当を増やしても仕組みがなければ、処理に追われるだけになります。まず人数より仕組みです。
Q. 何から始めればいいですか?
現状の可視化からです。何を、どこから、いくらで買っているか。金額の大きい品目や外注先から順に一覧化し、価格改定の履歴と発注先を選んだ理由を残すこと。高価なシステムは不要で、表計算ソフトから始められます。
Q. 購買部門を作ると、コストはどれくらい下がりますか?
一律の数字はありませんが、調達コストの改善は基本的にそのまま利益へ反映されます。仕入額の1%の改善は、利益率3%の会社なら売上を約33倍伸ばすのと同じ利益インパクトを持ちます。ただし目的は値下げではなく、ムダなコストを減らして利益が残る仕組みをつくることです。
なぜ調達の改善がそのまま利益になるのかは、「コスト削減はもう限界?」その前に調達を見直す理由で掘り下げています。
Q. ベテラン担当者しか分からない状態が心配です。どうすれば?
属人化の解消は、判断の理由を会社に残すことから始まります。「なぜこの仕入先なのか」「なぜこの価格を認めたのか」を記録に変えていくこと。担当者の強みは残しつつ、その人がいないと会社として判断できない状態を変えることが目的です。
属人化を解消する具体的な進め方は、購買・調達の属人化はなぜ起きるかをご覧ください。
Q. こうした立ち上げは、誰に相談すればいいですか?
社内に購買の専門家がいない場合、調達を専門とする中小製造業向けコンサルタントに相談する選択肢があります。現状の可視化から発注ルールづくり、仕入先の整理までを、自社の現場に合わせて外部の視点で整えられます。
RE:GENの購買・調達改革の支援についてもご覧ください。
まとめ――購買部門の立ち上げは、判断の仕組みづくりから
RE:GENは、調達から会社を強くする中小製造業コンサルティングとして、中小製造業の経営者向けに、購買・調達業務の現状可視化、仕入先管理、見積比較、発注ルールづくり、外注先の整理、購買機能の立ち上げを支援しています。
大手メーカーでの調達経験と、中小製造業の現場支援で得た実務感覚をもとに、机上の仕組みではなく、現場で使える購買の形を一緒に整えていきます。
いきなり大きな改革を行う必要はありません。
まずは、今の購買の状態を見える化し、どこから手をつけるべきかを明確にすることが大切です。
- 購買部門を作るべきか。
- 担当者を置く前に何を整理すべきか。
- 仕入先や外注先との関係をどう見直すべきか。
- 社内の発注ルールをどう整えるべきか。
こうした悩みがある場合は、一度ご相談ください。
購買は、単なる発注業務ではありません。会社の利益を守り、ものづくりの未来を支える大切な機能です。
調達を見直すことは、会社の利益の源泉を見直すことでもあります。
「ちょっと話を聞いてみたい」でも大歓迎です。
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