📖 後編|バイヤーは財務のどこを見るか──“倒れない相手”を選ぶ

コラム・調達豆知識

調達の仕事は「安く買うこと」ではありません。倒れないパートナーを選び、共に育てることです。

だから、見る数字は多くなくていい。必要なのは、前編で「会社の身体」の要だと紹介した3つの主要な数字に絞り込むことです。


1. 🥇 粗利率(売上総利益)──現場に“余裕”があるか

粗利は、その会社が本当に生み出している付加価値の源泉であり、現場の作業品質に直結します。粗利が低い現場には、共通して「余裕のなさ」が滲み出ています。

粗利が低い現場の兆候粗利が高い現場の兆候
工具の刃が替えられていない、手入れが後回し動きにムダがない、作業が洗練されている
片付けが「時間があれば」に回され、5Sが崩れがち声が荒れない、現場が静かで落ち着いている
設備音が荒い、手戻りが多いトラブル対応が速く、体系化されている

これは能力ではなく、余裕の問題です。

粗利は、現場の文化と品質を維持するための「余白」です。


2. 🧱 自己資本比率──倒れにくさは“挑戦の余白”

自己資本比率は、会社を支える体幹です。借金(他人資本)に大きく依存し、自己資本が薄い会社の現場は、「攻め」ではなく「耐える」空気になります。

自己資本に余裕がないと、未来の収益を生む設備投資や人材育成といった「挑戦」に手が回らなくなります。

自己資本が薄い現場の空気自己資本に余裕がある現場の空気
設備更新が止まる、古い設備に頼り続ける改善に積極的に投資できる、最新技術を導入
人材育成に手が回らない技術的な力を蓄えられる、若手が育つ
改善提案が出ない、現状維持で精一杯長期の視点で関係が作れる

挑戦できる会社は、取引の未来を一緒に作れる会社なのです。


3. 🌬️ 現金・預金(流動性)──呼吸ができるか

「現金・預金」の残高や、短期的な支払い能力(流動性)は、会社の呼吸です。呼吸が浅い会社は、計画よりも突発的な“火消し”に追われます。

  • 不具合対応で倒れる(余裕がないため、小さなトラブルで動けなくなる)
  • 一時的な納期遅延が長期化する
  • 「やれること」ではなく「今できること」で判断する

一方、現金の備えがある会社は、トラブル時にも立て直しが速く、判断がぶれません。

誠実さや迅速な対応は、財務に裏打ちされます。


4. 🔠 数字 → 現場 → 調達判断 の翻訳表

調達担当者が財務諸表と現場を往復することで、以下の判断に繋げることができます。

数字現場での兆候(翻訳)調達が判断するべきこと
粗利作業の丁寧さ / 手戻りの少なさ品質の長期安定力と価格交渉の余地
自己資本比率設備更新 / 改善提案の有無共創可能性(未来を共に作れるか)
現金・流動性立て直しのスピード / 判断の安定性トラブル時の信頼維持能力とリスク

調達は「値段を叩く人」ではありません。これらを“読み”、未来に向けた関係を設計する人なのです。


5. 👓 RE:GENの視点:財務は「人」と「現場」の翻訳

数字に強いだけでは足りません。現場に強い目がなければ、財務諸表はただの情報です。

財務は、「人」と「現場」の状況をバイヤーに伝える翻訳です。

調達とは、この翻訳された情報を活用して、自社とサプライヤーの双方に利益をもたらす関係を扱う仕事なのです。


✅ 後編まとめ:倒れない相手を選ぶことが、未来をつくる

  • 粗利=現場の余裕(品質の安定)
  • 自己資本比率=挑戦できる力(未来への投資力)
  • 現金=呼吸(トラブル時の対応力)
  • 調達は「叩く」ではなく「育てる」関係の設計者

倒れない相手を選ぶことが、結果的に自社の安定と、明るい未来をつくることにつながるのです。

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