「接待って、やった方がいいのかな?」
経営者やバイヤーから、そんな声を耳にすることがあります。
確かに接待は必要ない。それでも「一歩踏み込んだ対話」が調達を強くする
「サプライヤーとは、どこまで付き合うべきなのだろう」
調達の仕事をしていると、そんなことを考える場面があります。
以前は、会食やゴルフなどを通じて取引先との関係を深めることも珍しくありませんでした。
しかし現在は、コンプライアンスや公平性の観点から、接待や贈答に厳しいルールを設ける企業が増えています。
こうした考え方は、日本企業だけのものではありません。
パナソニックグループは「クリーン調達宣言」の中で、購入先からの会食接待やゴルフ・旅行などを原則受けない方針を明示しています。
また、サムスン電子もグローバルな購買・倫理規範の中で、購買担当者に公正で倫理的な行動を求め、金品や接待などの経済的利益の授受を厳しく管理しています。
企業や国が違っても、調達判断と個人的な利益を切り離す方向は共通しています。
これは当然の流れだと思います。
接待の有無で発注先が決まる。
担当者との個人的な関係で条件が変わる。
そんな調達であってはいけません。
ただし、ここで一つ区別しておきたいことがあります。
接待をなくすことと、相手との距離を遠ざけることは、同じではありません。
調達に必要なのは「仲良くなること」ではない
サプライヤーとの関係づくりというと、
「仲良くした方がいい」
という話に聞こえるかもしれません。
私は少し違うと思っています。
調達に必要なのは、仲良くなることではありません。
必要なときに、
「実は、この条件では厳しいです」
「この図面なら、こちらの工法の方がいいと思います」
「このままだと、数か月後に供給が危なくなります」
と、相手が本当のことを言える関係です。
会議では、
「問題ありません」
と言っていたサプライヤーが、少し話を深めると、
「実は現場ではかなり無理をしています」
と教えてくれることがあります。
この一言が、問題を未然に防ぐことがあります。
つまり、調達にとって価値があるのは、接待そのものではありません。
表面的なやり取りの一段奥にある情報へたどり着ける関係です。
「発注する側」というだけで、本音は言いにくくなる
調達担当者は、自分が思っている以上に強い立場にいます。
価格を決める。
発注量を決める。
新しい仕事を出す。
場合によっては、取引を続けるかどうかにも関わる。
そんな相手に対して、サプライヤーがすべてを率直に話せるとは限りません。
「この納期は厳しい」
と言えば、仕事を他社へ回されるかもしれない。
「値段が合わない」
と言えば、競争力がない会社と思われるかもしれない。
だから、
「大丈夫です」
と言ってしまう。
そして、本当に大丈夫ではなくなってから問題になります。
調達側が一歩踏み込んで聞かなければ、本音は見えてこないことがあります。
一歩踏み込むとは、私生活へ踏み込むことではない
ここは誤解したくないところです。
一歩踏み込んだコミュニケーションとは、相手のプライベートへ無理に入っていくことではありません。
飲みに誘うことでもありません。
必要なのは、仕事の背景まで聞くことです。
たとえば、
「この見積り、前回より上がっていますね」
で終わらず、
「何が一番上がっていますか」
と聞く。
「納期は間に合いますか」
だけではなく、
「どの工程が一番苦しくなりそうですか」
と聞く。
「この仕様でできますか」
ではなく、
「つくる側から見て、この図面で気になるところはありませんか」
と聞く。
一つ質問を深くするだけで、返ってくる情報は変わります。
サプライヤーの現場へ行く
会議室だけでは見えないこともあります。
工場へ行けば、
設備が古くなっている。
作業者が不足している。
材料置場がいっぱいになっている。
特定の人に仕事が集中している。
改善できそうな工程がある。
といったことが見えてきます。
逆に、
「こんな設備を持っていたのか」
「この加工までできるのか」
「こんな技術を持っていたのか」
と、新しい可能性が見つかることもあります。
サプライヤーを理解するとは、会社案内を読むことではありません。
その会社が、どのように仕事をしているかを見ることです。
こちらからも情報を出す
信頼関係は、相手から情報をもらうだけではできません。
発注側も、
「来年、この製品が増える可能性があります」
「設計がこの方向へ変わりそうです」
「いま社内ではここが課題になっています」
と、出せる範囲で情報を渡す。
するとサプライヤー側も、
「それなら、この設備を使えます」
「この材料へ変えた方がよいかもしれません」
「今のうちに生産能力を増やしておきます」
と考えられるようになります。
サプライヤーは、情報がなければ提案できません。
良い提案が来ないと感じたとき、まず、
自分たちは、提案できるだけの情報を渡しているだろうか
と考えてみる必要があります。
雑談にも意味はある
だからといって、仕事以外の話をすべて排除する必要もありません。
趣味の話。
地域の話。
最近困っていること。
会社の歴史。
経営者が大切にしていること。
そういう何気ない会話から、その会社や相手の考え方が見えてくることがあります。
ただし、その目的は「懐に入り込むこと」ではありません。
相手を、一人の担当者ではなく、一人の人間として理解することです。
その理解があるからこそ、難しい交渉の場でも、
「この人なら、事情を説明すれば分かってくれる」
という関係が生まれます。
会話を「成果」に変える
関係づくりで最も大切なのは、話して終わらないことです。
サプライヤーとの会話で、
「この工程、変えられるかもしれませんね」
という話が出た。
そこで終われば雑談です。
次の日に、
「昨日の話ですが、社内で確認しました」
と返す。
試作する。
見積もる。
設計へ相談する。
その一つの行動で、相手は、
「ちゃんと聞いてくれていたんだ」
と感じます。
信頼は、話した回数ではなく、
言ったことが、実際に動いた回数
によって積み上がるのだと思います。
接待がなくても、関係は深められる
会食やゴルフが禁止されている会社でも、サプライヤーとの関係を深める方法はいくらでもあります。
工場を訪問する。
展示会を一緒に見る。
技術交流会を開く。
改善テーマを一緒に考える。
定期的に情報交換する。
新しい技術を紹介してもらう。
困りごとを聞く。
大切なのは形式ではありません。
何のために時間を共有するのかです。
接待によって発注を左右するのは、公正な調達ではありません。
一方で、コンプライアンスを理由にサプライヤーとの対話まで薄くしてしまえば、調達が得られる情報も減ってしまいます。
その二つは分けて考える必要があります。
RE:GENの視点――強い調達は、本音が届く
価格表だけを見ていても、調達は強くなりません。
図面だけを見ていても分からないことがあります。
見積書にも、納期回答にも、品質データにも書かれていない情報があります。
その情報を持っているのは、結局、人です。
だから調達には、
「何か困っていることはありませんか」
「本当のところ、この条件はどうですか」
と、一歩踏み込んで聞ける力が必要です。
そして、それ以上に、
相手が本当のことを言っても大丈夫だと思える関係をつくること
が必要です。
サプライヤーとの距離が近いこと自体が、調達力なのではありません。
必要な情報が、必要なときに、本音で届く。
それが強い関係です。
まとめ――形式ではなく、本音が届く関係をつくる
形式的な接待は必要ありません。
発注と個人的な利益を結びつけるような関係も必要ありません。
しかし、だからといって、サプライヤーとの関係まで事務的にする必要はありません。
相手の現場を知る。
一歩深く質問する。
こちらからも情報を出す。
会話から生まれた話を行動へ移す。
そうした積み重ねによって、
「この会社には、本当のことを話しても大丈夫だ」
と思ってもらえる。
そこから届く情報や提案が、品質、納期、原価、新技術、供給リスクの改善につながります。
接待ではなく、対話を深くする。
これからの調達に必要な「一歩踏み込んだコミュニケーション」とは、そういうものではないでしょうか。
「ちょっと話を聞いてみたい」でも大歓迎です。
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