在庫は多い方がいい?少ない方がいい?──大切なのは「何のために持つか」

「在庫は少ない方がいい」

製造業では、よく聞く言葉です。

確かに、在庫を持てばお金が寝ます。

倉庫も必要になります。

時間がたてば、陳腐化や廃棄のリスクも出てきます。

だから、在庫はできるだけ減らした方がいい。

考え方としては間違っていません。

ただ、調達の現場に長くいると、在庫を単純に「多い」「少ない」だけで見ることには少し違和感があります。

なぜなら、在庫を持っていることで選ばれている会社もあるからです。

必要なときに、必要なものをすぐ出せる。

それ自体が、顧客にとって価値になることがあります。

つまり、問題は在庫の量ではありません。

その在庫に、どんな役割があるのか。

ここを見ないまま減らしてしまうと、会社の強みまで削ってしまうことがあります。


在庫は、持つだけでコストになる

まず、在庫を持つデメリットははっきりしています。

在庫を買うには、お金が必要です。

そのお金は、売れるまで戻ってきません。

さらに、

  • 倉庫代
  • 保管のための人件費
  • 棚卸しの手間
  • 管理システム
  • 破損や劣化
  • 陳腐化
  • 廃棄

といった費用やリスクも発生します。

在庫が増えれば、会社の中に眠っているお金も増えます。

だから在庫削減は、資金繰りや収益改善の面でとても重要です。

ただし、

在庫を減らすことそのものを目的にしてしまうと、判断を誤ります。


在庫があるから、選ばれる会社もある

たとえば、部品や機器を扱う会社では、

「今日必要だから、今日欲しい」

という注文があります。

そのとき、

「取り寄せなので1週間かかります」

という会社と、

「在庫があります。すぐ出せます」

という会社があれば、どちらが選ばれるでしょうか。

価格が少し高くても、後者が選ばれることがあります。

特に、工場の設備が止まっている。

生産ラインが止まりそう。

試作を今日中に進めたい。

そんな状況では、納期そのものに価値があります。

キーエンスが即納体制を大きな強みとしているのも、まさにその考え方です。

在庫を持つことで、お客様側は余分な在庫を持たずに済む。

必要なときだけ、必要なものを買える。

つまり、サプライヤー側が在庫を持つことで、顧客側のリスクを引き受けているとも言えます。

この場合、在庫は単なるコストではありません。

サービスの一部です。


良い在庫と悪い在庫は、量では決まらない

では、在庫が多くても問題ないのでしょうか。

もちろん、そうではありません。

大切なのは、

なぜ、その在庫を持っているのかを説明できるか

です。

たとえば、

「この材料は調達に4か月かかるので、2か月分を安全在庫として持っています」

「この部品は欠品すると設備が停止するので、最低3個は確保しています」

「この商品は繁忙期に需要が集中するので、事前に生産しておきます」

こうした在庫には、理由があります。

一方で、

「昔からこの量だから」

「担当者が不安だから」

「念のため」

「使うと思って買ったけれど、結局使っていない」

ではどうでしょう。

これは、見直した方がいい在庫かもしれません。

だから、

良い在庫と悪い在庫は、多いか少ないかではなく、持つ理由があるかどうかで決まる。

私はそう考えています。


「在庫を20%減らせ」だけでは、うまくいかない

在庫が増えてくると、

「今年は在庫を20%減らそう」

という目標が出ることがあります。

数字としては分かりやすいです。

でも、なぜ在庫が増えているのかを見ずに、量だけ減らそうとすると問題が起きます。

たとえば、

在庫を減らした。

その結果、欠品が増えた。

特急輸送が増えた。

仕入先への緊急発注が増えた。

生産が止まった。

営業がお客様に謝ることになった。

これでは、在庫は減っても会社全体のコストは増えてしまいます。

在庫削減で本当に見るべきなのは、

在庫そのものではなく、在庫を生み出している原因

です。


在庫が増える原因は、倉庫の中だけにはない

在庫が多いと、つい倉庫や調達の問題だと思われがちです。

でも、実際には会社のいろいろな場所から在庫は生まれます。

たとえば、

発注ロット

仕入先の最小ロットが大きければ、必要以上に買わなければならないことがあります。

リードタイム

調達に時間がかかる材料ほど、欠品を避けるために在庫を多く持ちたくなります。

需要予測

売れると思って大量に用意したのに、需要が外れれば在庫になります。

生産計画

まとめて生産した方が効率がいいから、と大量につくれば、仕掛品や完成品の在庫が増えます。

設計変更

仕様が変われば、それまで使っていた材料や部品が突然使えなくなることがあります。

品質

不良や歩留まりが不安定なら、余分に材料を持つ必要が出てきます。

営業

「いつ注文が来ても対応したい」という要求が強ければ、在庫を厚くする必要があります。

つまり、

在庫は、会社全体の判断の結果として積み上がっている。

だから調達だけに、

「在庫を減らしてください」

と言っても、根本的には解決しないことがあります。


在庫削減より、「適正在庫」を考える

目指したいのは、在庫ゼロではありません。

必要なものを、必要なときに出せる状態を維持しながら、余分な在庫を減らすことです。

そのためには、

  • どの商品がよく動くのか
  • どの商品がほとんど動かないのか
  • 調達には何日かかるのか
  • 欠品するとどれくらい困るのか
  • 代替品はあるのか
  • 仕入先にどれくらい柔軟性があるのか
  • 最小発注量はいくつなのか

といったことを一つずつ見ていく必要があります。

すべての商品に同じ在庫ルールを当てはめる必要はありません。

欠品しても困らないもの。

絶対に欠品させてはいけないもの。

すぐ買えるもの。

半年待たなければならないもの。

それぞれ、持つべき量は違います。

だから大切なのは、

在庫を減らすことではなく、在庫を分けて考えること

です。


「持つべき在庫」と「減らすべき在庫」を分ける

私は、在庫を見るとき、

「多いか少ないか」

より先に、

「これは何のためにあるのか」

と考えます。

お客様へのサービスのために必要な在庫。

供給リスクに備えるための在庫。

調達リードタイムを埋めるための在庫。

生産効率を保つために必要な在庫。

一方で、

需要がなくなったのに残っている在庫。

設計変更で使えなくなった在庫。

過剰発注によって積み上がった在庫。

理由もなく何年も置かれている在庫。

これらは、同じ「在庫」でも意味がまったく違います。

全部まとめて、

「在庫が多いから減らそう」

としてしまうと、守るべきものまで減らしてしまいます。


在庫は、会社の考え方を映している

在庫を見ると、その会社のいろいろなことが見えてきます。

発注の仕方。

生産計画。

営業と製造の関係。

仕入先との関係。

需要予測の精度。

設計変更の管理。

欠品に対する考え方。

在庫は、単なる倉庫の数字ではありません。

会社の仕事の仕組みが、形になって置かれているもの

とも言えます。

だから在庫を減らしたいときは、倉庫だけを見るのではなく、その手前を見る。

なぜ買ったのか。

なぜこの量なのか。

なぜ使われていないのか。

なぜ次も同じ量を発注しようとしているのか。

そこまでさかのぼると、在庫の問題とは別の課題が見えてくることがあります。


RE:GENの視点──在庫を減らすことが目的ではない

RE:GENでは、在庫削減そのものをゴールにはしていません。

在庫は少なければ少ないほど良い、とは考えていないからです。

必要な在庫までなくしてしまえば、会社は弱くなります。

逆に、理由のない在庫を抱え続ければ、資金を失います。

大切なのは、

必要なときに、必要なものが、必要な量だけあること。

そして、

なぜ、その量を持っているのかを説明できること。

その状態をつくることです。

在庫は、敵でも味方でもありません。

どう持つかによって、コストにもなれば、競争力にもなります。

だから問いかけたいのは、

「在庫は多い方がいいのか、少ない方がいいのか」

ではありません。

「この在庫は、何のためにあるのか」

です。

その問いから、在庫改善は始まります。


RE:GEN|調達から会社を強くする|中小製造業コンサルティング

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